VOA村の冒険

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VOAと共形ネット② Wightman の公理について1: Poincaré 群

こんにちは。みしぇるです。

前回の記事から随分時間が経ってしまいました。何もかも試験のせいや……。 

というわけで、今回から本格的に記事を書いていきたいと思っています。

また、せっかくの長期休業なので、毎週広義月曜に記事を書くことを目標にします。VOA の話が中心になるかと思いますが、進捗に乏しい時は数学・物理に関する小ネタを投下する予定です。

さて、目標はVOA と共形ネットの対応を言うことなので、VOA と共形ネットを定義したいわけですが、いきなり定義を書いても何故そのような対象を考えるのか分からないと思います。そこで、まずは両者の背景にある場の量子論の公理、Wightman の公理について述べたいと思います。物理の知識は仮定せず、Wightman の公理の物理的概要を理解することを目標とします。

まず相対論的共変性を考えたいので、Minkowski 空間を定義します。

定義(Minkowski 空間). \( d \) 次元実ベクトル空間\( \mathcal{M} \) で計量

\begin{align*} | x - y |^{2} = (x_{0}- y_{0})^{2} - (x_{1}- y_{1})^{2} - \cdots - (x_{d-1} - y_{d-1})^{2} \quad ( x = ^{t}(x_{0},x_1, \cdots, x_{d-1} ), y = ^{t}(y_{0},y_1, \cdots, y_{d-1} ))\ \end{align*}

を持つものを \( d \) 次元Minkowski 空間という*1

\( | x - y |^{2} > 0 \) なる2点 \( x,y \) はtime-like であるという。同様に、\( | x - y |^{2} = 0 \) なる2点 \( x,y \) はlight-like であるといい、\( | x - y |^{2} < 0 \) なる2点 \( x,y \) はspace-like であるという。

物理的には \( x_{0} = ct \) (\( c \) :光速、\( t\) :時間)で、\( x_{1}, \cdots, x_{d-1} \) が空間座標を表します。\( d=4 \) の場合を考えると、原点からspace-like に離れた点は \( (ct)^{2} < x^{2}+y^{2}+z^{2}\) を満たし、光速以下の物体(相対論では物体は光速を超えません)が時間 \( t \) でたどり着けない点となります。light-like は光速で動く物体が到達しうる点です。time-like も同様。

ここで任意の慣性系が等価であること(相対性)を要請すると、慣性系は適当な変換で結ばれるはず。その変換はどのような条件を満たすでしょうか? 光速度不変性を要請すると、たとえば変換前にlight-like であった点が変換後にspace-like になったりするとおかしいわけです。この考えを拡張して、上で定義した計量が保たれるような変換を考えることにします。

まず、並進 \( \mathcal{M} \) が計量を保つことは明らかでしょう。Euclid 空間では並進に加えて回転が計量を保つ変換でしたが、Minkowski 空間にも「回転」にあたる変換があります。それがLorentz変換です。

\( g = \mathrm{diag} ( 1, -1, \cdots, -1)\) とすると \( x \in \mathcal{M} \) について \( | x |^{2} = ^{t}xgx \) と表せます。ここで \( x \) がある行列 \( \Lambda \) を用いて \( \Lambda x \) と変換されたとしましょう。すると \( | \Lambda x |^{2} = ^{t}x ^{t}\Lambda g \Lambda x \) となるので、\( | x |^{2} = | \Lambda x |^{2} \) が任意の \( x \) について成り立つためには \( ^{t}\Lambda g \Lambda = g \) が必要になります。以上より、次の定義を得ます。

定義(Lorentz 群). \( g = \mathrm{diag} ( 1, -1, \cdots, -1)\) に対し、\( ^{t}\Lambda g \Lambda = g \) を満たす \( d \) 次正方行列全体をLorentz 群という。

ここで \( \mathrm{det} \Lambda = \pm 1 \) であることから、Lorentz 群が連結でないことがわかります。連結成分の中で単位元を含まないものには、時間反転 \( T: x_{0} \mapsto -x_{0} \) や空間反転 \( P: x_{i} \to -x_{i} \quad ( i = 1, \cdots, d-1 ) \) が含まれます。連結成分は全部で4つあり、\( P, \ T, \ PT \) で移り合うことが知られています*2。実は物理的には \( P \) 対称性および \( CP \) 対称性(したがって \( T \) 対称性)が破れることが実験的に確認されているので、Lorentz 群全体での共変性を考えるのは厳密には不適切です。そこで次のように定義します。

定義(固有順時Lorentz 群). Lorentz 群の連結成分のうち単位元を含むものを固有順時Lorentz 群(proper orthochronous Lorentz group)といい、\( \mathcal{L} \) と表す。

定義(Poincaré 群). \( \mathfrak{P} \equiv \mathcal{M} \rtimes \mathcal{L} \) をPoincaré 群といい、その元を \( (a ,\Lambda) \) のように表す*3

(やっとPoincaré 群が定義できた……。)以上より、Poincaré 群の作用の下での共変性を考えればよいように思えます。しかし実はまだ若干問題が残っています。問題というのは \( \mathcal{L} \) が単連結ではないことです。これがどう問題かというのを簡単に説明します。量子論を考えると、Poincaré 群のHilbert 空間上のユニタリ表現を考える必要が出てきます。その表現を \( U \) とかくと、当然 \begin{align*} U( ( a,\Lambda ) \cdot ( a', \Lambda' ) ) = U(a, \Lambda )U(a',\Lambda' ) \end{align*} が成り立っていてほしいわけです。しかし一般にはそうはならず、 \begin{align*} U( ( a,\Lambda ) \cdot ( a', \Lambda' ) ) = e^{i \theta} U(a, \Lambda )U(a',\Lambda' ) \end{align*} のように位相因子が出てしまい、特にスピンが半整数の場合はどう \( U \) を取り直しても \( e^{i \theta} = 1 \) とできないことが知られています。この問題は、 \( \mathcal{L} \) を単連結にしてしまう、すなわち \( \mathfrak{P} \) の普遍被覆 \( \mathfrak{\bar{P}} \) をとることで解決できます*4

以上の議論をまとめます。

要約. 場の量子論はPoincaré 群の普遍被覆 \( \mathfrak{\bar{P}} \) の作用の下で共変となるべきである。

ここまで書いて疲れたのに加えてまだWightman の公理を理解しきれていないので、今回はここまでとさせてください。Wightman の公理と銘打っておきながらWightman の公理に言及できていませんが、すみません……。予定では今回Wightman の公理どころか作用素代数のネットと頂点代数の定義まで行くつもりだったんだけどなあ、おかしいなあ……。もう一週間勉強します。

参考文献

  1. 風間洋一. 相対性理論入門講義. 培風館, 1997, (現代物理学入門講義シリーズ, 1).
  2. R.Haag. Local Quantum Physics: Fields, Particles, Algebras. 2nd ed., Springer, 1996.
  3. Victor Kac. Vertex Algebras for Beginners. 2nd ed., American Mathematical Society, 1998, (University Lecture Series, 10).
  4. Raymond F. Streater, Arthur S. Wightman. PCT, Spin and Statistics, and All That. Princeton Univ Pr, 2000, (Landmarks in Physics).

相対論の入門的な教科書として[1]を挙げておきます。物理が気になる人は読んでみてください。Poincaré 群のあたりは[2][3]を参考にしました。[2][3]にもWightman の公理についての記載がありますが、Wightman 自身が書いた教科書として[4]を挙げておきます。

*1: \( ^{t} \) は転置を表す。

*2:この話は今度もっと詳しく調べようと思っています。

*3:この \( \mathcal{L}\) をLorentz 群に取るのが一般的な定義であるように思う。しかし前述した実験的事実を考慮し、また議論の煩雑さを回避するためこのように定義する。

*4:この話も今度詳しく調べようと思います。