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VOA村の冒険

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VOAと共形ネット③ Wightman の公理について2: QFT

こんにちは。先週は進捗があまり無く、本当に毎週記事にできるほど進捗を生めるのか心配になってきました。月曜日に更新すると言った矢先に火曜日投稿になっちゃったし……。

前回の記事では、求める理論が「Poincaré 群(の普遍被覆) \( \bar{\mathfrak{P}} \) の作用の下に共変である」ことを要請したのでした。

michelidea.hatenablog.com

(サムネが試し書きした数式になっていますが気にしないでください。)

前回の記事は、物理で知られていることを若干数学寄りに説明したところで終わってしまいました。今回は量子場を定義し、Wightman の公理の物理的意味を説明したいと思います。物理をある程度勉強したことがある人は飛ばし飛ばしで良いかも。

まず、量子論について。大雑把に言うと、20世紀初頭に従来の古典論ではどうも説明できないことが沢山でてきたので(前期量子論)、Heisenberg やSchrödinger が新しい理論を作りました。Heisenberg の描像では作用素の時間発展、Schrödinger の描像では波動関数と呼ばれる関数の時間発展を考えますが、両者は物理的に等価であることが知られており、また後者は時間と空間の扱い方がだいぶ違っていて相対論的に扱いづらいので、今回はHeisenberg 描像で説明したいと思います。

古典論と大きく異なるのは、物理量が確定した値とならないことです。具体的には、物理量は実数ではなく作用素として与えられ、ある状態における物理量の測定値の期待値のみが計算できると考えます。そこで、状態を定義しましょう*1

まず状態とはHilbert 空間 \( \mathcal{H} \) の元であると考えます。このHilbert 空間の内積を \( (,) \) とかくとき、状態 \( \psi \) にある系において状態 \( \phi \) が測定される確率は*2 \begin{align*} \frac{|( \phi , \psi ) |^{2}}{( \phi , \phi ) ( \psi , \psi )} \end{align*} で与えられると考えます(確率解釈)。

このとき、ある状態を定数(0は除く)倍しても上式で与えられる確率は不変であることがわかります。すなわち、定数倍だけ違う状態は物理的に同じ結果を与えます。そこで以下の概念を導入します。

定義(射線). 複素Hilbert 空間 \( \mathcal{H} \) の複素数(0を除く)倍に関する同値類 \( \{ \psi \} \) を射線(ray) という。代表元として \( ( \psi , \psi ) = 1 \) をみたすもの(unit ray)をとると、上で定義した確率が \( |( \phi , \psi ) |^{2} \) という簡単な形になるため、以後は必ずこのように代表元を取ることとし、同値類とunit ray を同一視することとする*3

状態がunit ray \( \psi \) で与えられる系での物理量 \( A \) の期待値は \( ( \psi , A \psi ) \) で与えられると考えます。以上のことにより、物理量の計算がunit ray およびそれに適切な作用素をかけたものの内積を計算することに帰着しました。

以上の議論を「場」という物理量に対して行うのが場の量子論です。場というのは時空点 \( x \in \mathcal{M} \) からの対応の意で、今の場合は物理量ですから各点に作用素が対応してほしいわけです。しかし物理では結構発散する物理量、すなわち時空のある点で作用素として定義できないものも考えます。そこで条件を緩めて超関数のようなものを考えることにしましょう。

定義(作用素値超関数). \( \mathcal{M} \) 上の急減少関数全体を \( \mathcal{S} \) とかく。連続線形写像 \( \Phi : \mathcal{S} \ni f \mapsto \Phi(f) \) が \( \mathcal{M} \) 上の作用素値超関数(operator-valued distribution, OPVD)であるとは、各 \( f \in \mathcal{S} \) に対し \( \Phi(f) \) がHilbert 空間 \( \mathcal{H} \) 上稠密に定義された線形作用素となることである。

これにより場はOPVD と思えます。このようにして作った \( \Phi(f) \) は発散の困難を試験関数に押し付けているという意味でsmeared fields とも呼ばれます。

ここまでは場が時空点に依存する作用素であるということだけからわかりました。量子論を展開するには、更に作用素に非可換な演算が入る必要があります。そのために場およびその共役に交換関係 \( \left[ A,B \right]_{-} = AB-BA \) または反交換関係 \( \left[ A,B \right]_{+} =AB+BA\) を設定するという方法があります(正準量子化)。そこで、各 \( \Phi ( f ) \) に対し共役 \( \Phi ( f )^{\ast} \) が定義できるものとしましょう。

相対論より「情報が光速を超えて伝わることはない」ことを考えると、(反)交換関係の課し方について制限が生まれます。すなわち、space-like に離れた点での場は互いに影響を及ぼさないはずです。「影響を及ぼさない」ことを \( \left[ \Phi_{a}(f), \Phi_{b}(g) \right]_{+ or -} = 0 \) と表します*4。\( - \) の方について言えば、不確定性関係 \( \Delta A \Delta B \ge |\langle \left[ A,B \right]_{-} \rangle|/2 \) より*5 \( \left[ \Phi_{a}(f), \Phi_{b}(g) \right]_{-} \neq 0 \) であると互いに測定誤差に影響を与えることになって不適なので、上の仮定は良さそうです*6

このように導入された場は次のような意味を持ちます。まず、真空 \( \Psi_{0} \in \mathcal{H} \) というunit rayが存在すると考えます。これは直観的には「何も存在しない状態」を表します。この真空に場が作用すると、その場に対応した新しい状態が出来ると考えます。つまり、いろいろな場を真空に作用させることでいろいろな状態を作ることが出来るわけです。こうして作られた状態は十分多い、すなわち \( \mathcal{H} \) 内で稠密に存在するとします。

いよいよ前回議論した相対論的共変性を考えます。そのためにPoincaré 群(の普遍被覆) \( \bar{\mathfrak{P}} \) の連続ユニタリ表現 \( U \) を考えましょう。この表現により得られる作用素 \( U ( a, \Lambda ) \) を各状態に作用させても物理的内容が不変となるための条件を考えます。そこで、場や状態がなにか適切な形に変換されるべきであると考えましょう*7。前述のように状態としては真空に場を作用させたものを考えたいので、それらの変換を考えます。

まず真空の変換について。直観的には「何もない」状態が「何かある」状態に変換されるのはおかしそうなので、真空は不変であるとします。すなわち \( U ( a, \Lambda ) \Psi_{0} = \Psi_{0} \)。

次に場の変換について。まず試験関数の変換を考えると、\( \mathfrak{P} \) の元が並進および回転と思えたことを思い出して \( ( a, \Lambda ) \cdot f \equiv f (\Lambda^{-1}(x-a))\) と定義すれば良さそうです。実際これは \( \bar{\mathfrak{P}} \) の左作用を定義します。そこで、真空に場を \( n \) 回作用させて得られた状態 \( \Psi \equiv \Phi_{1}(f_{1}) \cdots \Phi_{n}(f_{n}) \Psi_{0} \) について \begin{align*} U ( a, \Lambda ) \Psi = U ( a, \Lambda ) \Phi_{1}(f_{1}) \cdots \Phi_{n}(f_{n}) \Psi_{0} = \Phi_{1}( ( a, \Lambda ) \cdot f_{1}) \cdots \Phi_{n}( ( a, \Lambda ) \cdot f_{n}) \Psi_{0} \end{align*} が成り立っていることを要請すれば自然になりそうです。これが成り立つためには、真空の不変性より、\( i = 1, \cdots n \) に対し \begin{align*} U ( a, \Lambda ) \Phi_{i}(f_{i}) U ( a, \Lambda )^{-1} = \Phi_{i}( ( a, \Lambda ) \cdot f_{i}) \end{align*} が成り立てば十分なので、これを場の変換則として採用しましょう。

最後に、エネルギー運動量作用素について触れておきます。ユニタリ作用素 \( U ( a,1 ) \) をスペクトル分解して \( \exp (i P^{\mu}a_{\mu})\) と書きます*8。このとき \( P^{0}\) はエネルギー、残りの \( P^{i} \) は運動量を表しており、 \( P^{\mu}P_{\mu} \) は質量の自乗に対応しています*9。そこで、エネルギーや質量が負にならない条件を考えます。

定義(forward cone). \( \{ x \in \mathcal{M} | |x|^{2} \ge 0 , \quad x_0 \ge 0 \}\) をforward cone とよぶ*10

この言葉を使うと、エネルギーおよび質量が非負であるという条件は、 \( P^{\mu} \) の同時スペクトルがforward cone に含まれること*11と言えます。

以上により、Wightman の公理を述べる準備が整いました。

Wightman の公理. 場の量子論(quantum field theory, QFT)とは、複素Hilbert 空間 \( \mathcal{H} \)、真空 \( \Psi_{0} \in \mathcal{H} \)、Poincaré 群の普遍被覆 \( \bar{\mathfrak{P}} \) の \( \mathcal{H} \) 上のユニタリ表現 \( U \)、OPVD の族 \( \{ \Phi_{a} \} \) ( \( a \) は添字)の4つ組 \( ( \mathcal{H}, \Psi_{0}, U, \{ \Phi_{a} \} )\) である。この組は以下の条件を満たす。

W0(相対論的量子論). 1. \( \mathcal{H} \) の元に関する言明は常にunit ray で考える。

2.(スペクトル条件) \( U ( a,1 ) = \exp (i P^{\mu}a_{\mu})\) としたときの \( \{ P^{\mu} \} \) の同時スペクトルはforward cone に属する。

3.(真空の一意性) 真空は一意で \( U ( a, \Lambda ) \Psi_{0} = \Psi_{0} \)

W1(場の定義域). OPVD \( \Phi \) および \( f \in \mathcal{S} \) について、\( \Phi(f) \) の定義域を \( \mathcal{D} \ ( \subset \mathcal{H}, \ dense) \) とする。

  1. \( \mathcal{D} \) は \( \mathcal{H} \) の部分空間。

  2. \( \mathcal{D} \) 上で共役作用素 \( \Phi(f)^{\ast} \) が定義できる。

  3. \( \Psi_{0} \in \mathcal{D} \)

  4. \( U ( a, \Lambda ) \mathcal{D} \subset \mathcal{D}, \quad \Phi(f) \mathcal{D} \subset \mathcal{D}, \quad \Phi(f)^{\ast} \mathcal{D} \subset \mathcal{D} \)

  5. \( \mathcal{D} \) は \( \Psi_{0} \) にあらゆるsmeared fields の多項式を作用させて得られる元により張られる。

W2(場の変換則). \( U ( a, \Lambda ) \Phi ( f ) U ( a, \Lambda )^{-1} = \Phi ( ( a, \Lambda ) \cdot f ) \)

ただし \( ( a, \Lambda ) \cdot f \equiv f (\Lambda^{-1}(x-a))\)

W3(局所可換性). *12\( f,g \in \mathcal{S}\) の台がspace-like に離れているとき、OPVD \( \Phi_{a},\Phi_{b}\) について

\( \left[ \Phi_{a}(f), \Phi_{b}(g) \right]_{+ or -} = 0 \quad on \ \mathcal{D}\)

以上がWightman の公理です*13。ここから何が導かれるか、これで十分なのか、などといった問題は残っていますが、少なくとも物理的におかしい仮定はしていないようであるということは分かるのではないでしょうか。

とりあえず今回はここまでで、次回は作用素代数のネットについて触れたいと思います。

参考文献

  1. Raymond F. Streater, Arthur S. Wightman. PCT, Spin and Statistics, and All That. Princeton Univ Pr, 2000, (Landmarks in Physics).
  2. R.Haag. Local Quantum Physics: Fields, Particles, Algebras. 2nd ed., Springer, 1996.
  3. Victor Kac. Vertex Algebras for Beginners. 2nd ed., American Mathematical Society, 1998, (University Lecture Series, 10).
  4. 猪木 慶治, 川合 光. 量子力学1. 講談社, 1994, (KS物理専門書).
  5. S.Weinberg. 場の量子論: 1巻 粒子と量子場. 青山秀明, 有末宏明訳. 吉岡書店, 1997.

Wightman の公理については主に[1]の流儀に従い、分かりづらいところは[2][3]も参考にしました。最低限の物理を説明しようとした結果わかりづらくなってしまった気がする……。ということで、量子力学の教科書として[4]、場の量子論の教科書として[5]を挙げておきます。特に場の量子論に関しては僕自身理解できていない部分が多いので(この記事の説明に間違いがあったらごめんなさい)、ぜひ読んで僕に教えてください。

*1:簡単のため純粋状態のみを考えます。

*2:状態を測定するというのが意味不明かもしれませんが、そのような理論上の測定器を考えていると思ってください。また測定とは何かというのは難しい問題なのでここでは触れないことにします。

*3:そもそもunit ray のことを状態とよぶこともあります。

*4: \( a,b \) は適当な添字で、異なる場を表す。

*5: \( \langle \rangle \) は期待値を表す。

*6: \( + \) の方に関しては実はそもそも観測可能でないので「測定誤差~」という議論は成り立ちません。実際はこれらの条件はS 行列の不変性から自然に要請されるものなのですが、いきなりS 行列を導入するのは分かりづらいと考えこのような説明にしました。

*7:共変性という言葉はこの意味で用いています。この意味で不変性ということもあります。

*8: \( P^{\mu}a_{\mu} = P^{0}a^{0} - P^{1}a^{1} - \cdots -P^{d-1}a^{d-1}\) 。添字が上についてますが普通にベクトルの成分だと思ってください。

*9:ここらへんの説明はこの記事だけの知識だと難しいので割愛。

*10: \(|x|^{2} = 0 \) が \( \mathcal{M} \) 上の円錐を定義することから。plus cone ともいう。

*11: \( P^{0}, P^{1}, \cdots, P^{d-1} \) の同時スペクトルを \( p_{0}, p_{1}, \cdots, p_{d-1} \) とするとき、点 \( ^{t}(p_{0}, p_{1}, \cdots, p_{d-1}) \) がforward cone に属する意。

*12:locality や(microscopic) causality ともいう。

*13:本当は漸近完全性 \( \mathcal{H} = \mathcal{H}^{in} = \mathcal{H}^{out} \) というのもあるのですが難しいので省略します。