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VOA村の冒険

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圏論を使おう 普遍性編

B3春休み勉強記録 数学 圏論

こんにちは。最近友人とお酒飲んだりしてたら進捗がなくてびっくりしました。

というわけでVOAの記事は来週書こうと思います。しかし記事を毎週書くことを目標にしていたので、今回VOAと関係ない話をすることで次回につなげたいと思います。

みなさん圏論って知ってますか? 僕の周りでは「名前は聞いたことあるけどよくわからない、なんか知らんけど難しそう」という人が多いような気がします。僕もあまり詳しくはありません。なので、圏論を既に知っていて勉強もしている、という人がこの記事を見ても新たに得るものはないかなあと思います。圏論をガチでやっている人には怒られるかもしれませんが、この記事の目的は、圏論をよく知らない人に「非数学専攻の学生が圏論の概念をちょっと知っているだけでも恩恵があるよ」ということを紹介することです。

初めに言っておくと、圏論の基礎的な部分を学んでいて「他の分野にも応用できる非自明な事実がバンバン出てくる」というようなことは基本ありません。\( \infty \)-圏とかになると非自明なことも言えるらしいですが、僕は知りません。語弊を承知で言えば、少なくとも今圏論を勉強してない人は「圏論で新しいことは分からない」という心積もりでよいかと思います。

では圏論は役に立たない学問かというと、そうでもありません。特定の圏の構造が面白いなどの話もあると思いますが、やはり個人的には「異なる概念に関する事実を統一的に理解できる」ことが魅力的であると思っており、実際たびたび助けられています。というのも、圏自体はかなり抽象的な概念なのでそのぶん守備範囲が広いんです。

今回はこのことを「普遍性」を例に説明したいと思います。

圏とは

圏というのは「対象」に「射」をあわせて考えたものです。対象というのは集合・群・位相空間など様々です。射というのは構造を保つ写像のようなもので、集合・群・位相空間についてそれぞれ写像・群準同型・連続写像が対応するといえばなんとなく通じるのではないでしょうか。これらの(集合,写像)・(群,群準同型)・(位相空間,連続写像)のセット全体をそれぞれ集合の圏 \( \mathrm{\mathbf{Set}} \)・群の圏 \( \mathrm{\mathbf{G rp}} \)・位相空間の圏 \( \mathrm{\mathbf{Top}} \) のように呼びます。他にもベクトル空間の圏、環の圏、可微分多様体の圏など色々考えることができます。

ちょっと定義がふわっとしているので射についてもう少し詳しく話します。射には「合成」という概念があることが要請されます。これは \( \mathrm{\mathbf{Set}} \) では普通に写像の合成です。更にこの合成 \( \circ \) は結合律 \( ( f \circ g ) \circ h = f \circ (g \circ h) \) を満たし、この合成についての単位元 \( 1 \) を持つものとします。もちろん \( \mathrm{\mathbf{Set}} \) では写像の合成は結合律を満たしますし、恒等写像単位元となるのでOKです。

可換図式

合成の概念を視覚的に理解する手段として可換図式というものがあります。例えば、「図式 $$ \begin{xy} \xymatrix { A \ar[dr]_h \ar[r]^f & B \ar[d]^g \\ & C } \end{xy} $$ が可換である」といえば、「射 \( f:A \to B,\ g:B \to C,\ h:A \to C \) について \( g \circ f = h \)」の意味になります。つまり図式が可換であるというのは異なる経路で射を合成しても結果が同じになるという意味です。

普遍性

数学をやっていると「普遍性」を持った対象に出くわすことがあります。対象 \( X \) から \( U(X) \) という対象(別の圏の対象でもOK)を構成する手続きがあるとき、\( U(A) \) が普遍的な対象であるというのは、任意の射 \( f: X \to U(Y) \) を \( U(A) \) への射 \( \phi : X \to U(A) \) を通して一意に分解できる、すなわち \( \exists ! \tilde{f} : U(A) \to U(Y) \ s.t. \ \tilde{f} \circ \phi = f \) となることをいいます。図式で書けば $$ \begin{xy} \xymatrix { X \ar[dr]_f \ar[r]^{\phi} & U(A) \ar@{.>}[d]^{\tilde{f}} \\ & U(Y) } \end{xy} $$ ということです。点線は一意であることを意味します。

普遍的な対象の例としてベクトル空間のテンソル積があります。ベクトル空間の直積 \( X \times Y \)から任意のベクトル空間 \( Z \) への任意の双線型写像テンソル積を通して一意に分解できるという事実があります。図式にすると $$ \begin{xy} \xymatrix { X \times Y \ar[dr]_f \ar[r]^{\otimes} & X \otimes Y \ar@{.>}[d]^{\tilde{f}} \\ & Z } \end{xy} $$ となります。他の例として、ベクトル空間のテンソル代数、リー環の普遍包絡環などがあります。

普遍性がどう使えるか

まず、ある対象が普遍性を持っているという事実だけから「対象が同型を除いて一意に定まる」ことを導けます。同型というのは同型射(合成に関する逆を持つ射)が存在することで、例えば \( \mathrm{\mathbf{G rp}} \) では群同型、 \( \mathrm{\mathbf{Top}} \) では同相になります。

\( \because) \ U(A), U(A') \) がともに普遍性を持つとすると $$ \begin{xy} \xymatrix { X \ar[dr]_{\phi'} \ar[r]^{\phi} & U(A) \ar@{.>}[d]^{\tilde{\phi'}} \\ & U(A') } \end{xy} $$ および $$ \begin{xy} \xymatrix { X \ar[dr]_{\phi} \ar[r]^{\phi'} & U(A') \ar@{.>}[d]^{\tilde{\phi}} \\ & U(A) } \end{xy} $$ が可換となる。この図式を融合させてみよう。すなわち $$ \begin{xy} \xymatrix { X \ar[drd]_{\phi} \ar[dr]^{\phi'} \ar[r]^{\phi} & U(A) \ar@{.>}[d]^{\tilde{\phi'}} \\ & U(A') \ar@{.>}[d]^{\tilde{\phi}} \\ & U(A) } \end{xy} $$ ここで右側を合成してしまうと $$ \begin{xy} \xymatrix { X \ar[dr]_{\phi} \ar[r]^{\phi} & U(A) \ar[d]^{\tilde{\phi} \circ \tilde{\phi'}} \\ & U(A) } \end{xy} $$ となるので、 \( U(A) \) の普遍性より \( \tilde{\phi} \circ \tilde{\phi'} = id_{U(A)} \) がいえる。同様に \( \tilde{\phi'} \circ \tilde{\phi} = id_{U(A')} \) がいえ、\( \tilde{\phi}, \tilde{\phi'} \) が同型を与える。□

これにより、例えばベクトル空間のテンソル積はベクトル空間としての同型を除いて一意に定まることがわかります。他にも、ベクトル空間のテンソル代数やリー環の普遍包絡環についても、この記事では定義すらしてませんが、どうやら同型を除いて一意であることは了解できるわけです。

このように、普遍的であることさえ示してしまえば同型を除いて一意であることが示せるわけです。もちろん、一意性を直接示すこともできる場合はあります。しかし、考えている対象が複雑になるほど直接示すのは難しくなり、普遍性の恩恵をえることができます。

普遍的対象の一意性は、その他の同型の証明にも使えます。一般的な議論からは離れますが、例えばテンソル積の対称性 \( V \otimes W \cong W \otimes V \) を簡単に示すことができます。

\( \because ) V \times W \cong W \times V \) を認めると、\( V \otimes W , \ W \otimes V \) がともに普遍性を持つことから従う。□

このように、対象がもつ構造の詳細を考えなくても色々言えてしまうのは嬉しい点です。

また、証明以外でも、普遍性などの概念が理解を助ける場合があります。例えば2つの位相空間 \( X,Y \) の直積 \( X \times Y \) を位相空間にしたい時、普通 \( X \times Y \) には「 \( X,Y \) への射影が連続となるような最弱の位相」を入れます。こういう定義が出てきたときに $$ \begin{xy} \xymatrix { X & X \times Y \ar[l]_{\pi} \\ & Z \ar@{.>}[u]_{f} \ar[ul]^{f_{X}} } \end{xy} $$ こういう図式が思い浮かぶと、「ああ、普遍性ね」となるわけです*1。もちろん普遍性という言葉を知らなくても理解できることですが、知っていると話が早くなります。

結論

ここまでの話をまとめると、「普遍性」のような一般的な概念を考えることによって様々な対象についての事実を一気に言うことができたり、理解が楽になる場合があって「便利だ」ということです。証明も視覚的でわかりやすく、この記事で示したようなことは特に「難しくない」こともわかってもらえたかと思います。更に興味がある人はマックレーン『圏論の基礎』とかを読もう!

個人的には図式の出力方法がわかって満足です。普遍性編と書きましたが特にシリーズ化はしないと思います……。

次回はVOAの記事書くと思います。

*1:さっきと矢印が逆向きですがこういうのも普遍性といいます。片方を余普遍性とよぶ流儀もあります。