VOA村の冒険

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VOAと共形ネット④ Haag-Kastler ネット

みしぇるです。今回はVOAの記事です。

前回はWightman の公理の概要を書きました。

michelidea.hatenablog.com

いろいろ書きましたが、最低限「物理的に自然な要請であるらしいこと」「OPVD やsmeared fields という概念があること」を押さえておけばOKです。

今回はHaag-Kastler ネットと呼ばれるものを導入することを目標とします。

前回、場とはOPVD であって、smeared fields としてHilbert 空間上に現れるのだと定義しました。しかしsmeared fields というのは基本的に正体不明の作用素で、そのままでは扱いづらいわけです。そこで、「smeared fields 全体のなす代数を考える」ことを発想します。(この考えはVOA と共形ネットの対応を言う上で大事になるので覚えておいてください。)

\( \mathcal{M} \) 内のある領域上のsmeared fields 全体を考えましょう。まず、言葉の定義をします。

定義(領域). \( \mathcal{M} \) 内の領域(region) \( \mathcal{O} \) とは、\( \mathcal{M} \) の連結非空開集合*1であってその閉包がコンパクトであるものとする。

このような領域 \( \mathcal{O} \) に対し、その上のsmeared fields 全体のなす代数 \( \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) を対応させることを考えます*2。 \begin{align*} \mathcal{O} \mapsto \mathcal{A}(\mathcal{O}) \end{align*} この対応を作用素代数のネット(net of operator algebras)と呼びます*3

Wightman の公理を考えると、作用素代数のネットはどのような条件をみたすべきでしょうか。まず当たり前のことですが、 \( \mathcal{O}_{1} \subset \mathcal{O}_{2} \) のとき、 \( \mathcal{O}_{1} \) 上のsmeared fields は \( \mathcal{O}_{2} \) 上のsmeared fields でもあるので、\( \mathcal{A}(\mathcal{O}_{1}) \subset \mathcal{A}(\mathcal{O}_{2}) \) が成り立ちます。この性質をisotony といいます。

Hilbert 空間 \( \mathcal{H} \) やユニタリ表現 \( U \) 、真空 \( \Omega \) は変更を受けないので*4、W0 に関してはそのまま要請されます。

W1 に関しては、smeared fields の定義域に関する細かい情報は失われ、W1-2, W1-5 のみが考慮されます。W1-2は「各smeared fields についてその共役 \( ^{\ast} \) が定義できる」というものでした。これを数学の言葉で言うと以下のようになります。

定義(対合). 写像 \( ^{\ast}: x \mapsto x^{\ast} \) が対合(involution)であるとは、 \begin{align*} (x^{\ast})^{\ast} = x, \quad \forall x \end{align*} となることをいう。

定義( \( ^{\ast} \)-代数). 反線形対合 \( ^{\ast} \) について閉じるベクトル空間を \( ^{\ast} \)-代数という。

すなわち、W1-2 は「 \( \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) は \( ^{\ast} \)-代数である」と言い換えられます。

W1-5 については以下のように表現できます。 \begin{align*} \left( \bigcup_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \right) \Omega \subset \mathcal{H}, \quad dense \end{align*} ここで左辺はすべての領域について和をとる意。この条件を「 \( \Omega \) は( \( \bigcup_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) について)cyclic である」といいます。

W2 については以下のようになります。 \begin{align*} U(g) \mathcal{A}(\mathcal{O})U(g)^{\ast} = \mathcal{A}(g\mathcal{O}), \quad g \in \bar{\mathfrak{P}} \end{align*} ただし \( g = (a,\Lambda) \) に対し \( g\mathcal{O} = \Lambda \mathcal{O} + a \) 。

W3 については、space-like に離れた \( \mathcal{O}_{1}, \mathcal{O}_{2} \) に対し \begin{align*} \left[ \mathcal{A}( \mathcal{O}_{1}), \mathcal{A}(\mathcal{O}_{2}) \right]_{+ or -} = 0 \end{align*} と表現できます。

さて、以上で \( \mathcal{A}( \mathcal{O}) \) の性質がだいたい出揃いました。ここでこれらの性質を公理化し、それら公理を満たす抽象的なネットを考えてみましょう。この際、簡単のため上で考えたよりも性質の良いものを考えましょう。まずはsmeared fields の中でも有界作用素に話を絞ることにします。すなわち \begin{align*} \mathcal{A}( \mathcal{O}) \subset \mathfrak{B}(\mathcal{H}) \end{align*} ただし、 \( \mathfrak{B}(\mathcal{H}) \) は \( \mathcal{H} \) 上の有界作用素全体。

また、\( \mathcal{A}( \mathcal{O}) \) は \( ^{\ast} \)-代数でしたが、もう少し強い概念を考えます。

定義(von Neumann 代数). \( \mathfrak{B}(\mathcal{H}) \) の単位的 \( ^{\ast} \)-部分代数で弱作用素位相(WOT)について閉になるものをvon Neumann 代数という*5

\( \mathcal{A}( \mathcal{O}) \) はvon Neumann 代数であると考えることにしましょう。すると、von Neumann 代数の和が再びvon Neumann 代数になるとは限らないので、W1-5 に関する条件を少し言い換える必要があります。 \( \bigcup_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) を含む最小のvon Neumann 代数を \( \bigvee_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) と書き*6、これによって言明を置き換えましょう。

最後に、W3 において負号(boson)のみを考えることにしましょう。

以上により、Haag-Kastler ネットの定義を得ます。

定義(Haag-Kastler ネット). \( \mathcal{M} \) 上のHaag-Kastler ネットとは、\( \mathcal{M} \) 内の領域からvon Neumann 代数*7への対応 \( \mathcal{O} \mapsto \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) であって以下の公理を満たすものである。

1.(Isotony) \( \mathcal{O}_{1} \subset \mathcal{O}_{2} \Rightarrow \mathcal{A}(\mathcal{O}_{1}) \subset \mathcal{A}(\mathcal{O}_{2}) \)

2.(Locality) space-like に離れた \( \mathcal{O}_{1}, \mathcal{O}_{2} \) に対し \( \left[ \mathcal{A}( \mathcal{O}_{1}), \mathcal{A}(\mathcal{O}_{2}) \right] = 0 \)*8

3.(Covariance) \( U(g) \mathcal{A}(\mathcal{O})U(g)^{\ast} = \mathcal{A}(g\mathcal{O}), \quad g \in \bar{\mathfrak{P}} \)

4.(Cyclicity) 真空 \( \Omega \) は\( \bigvee_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \) についてcyclic、すなわち \( \bigvee_{\mathcal{O} \subset \mathcal{M}} \mathcal{A}(\mathcal{O}) \Omega \subset \mathcal{H}, \quad dense \)

これにより、smeared fields のなす代数の性質を取り出して公理化することができました。Haag-Kastler ネットの定義ではsmeared fields の存在は忘れて抽象的なvon Neumann 代数を考えていますが、まずsmeared fields の発想があってこの定義になるのだということは意識しておくとよいと思います。

さて、この記事の題名にもなっている共形ネットというのは、実はこのHaag-Kastler ネットの特別な場合の概念になっています。初めに「VOA と共形ネットはともにQFT を記述するものである」と言いましたが、実は正確に言えばこれらが記述する理論は一般のQFT に比べて対称性の高い2d chiral CFT というものになっています。そこで次回以降は共形ネットの背景にある2d chiral CFT の考え方をまとめていく予定です。

参考文献

  1. Rudolf Haag, Daniel Kastler. An Algebraic Approach to Quantum Field Theory. Journal of Mathematical Physics, 1963.
  2. Sebastiano Carpi et al. From vertex operator algebras to conformal nets and back. arXiv:1503.01260v3 [math.OA] .
  3. R.Haag. Local Quantum Physics: Fields, Particles, Algebras. 2nd ed., Springer, 1996.

Haag-Kastler ネットの定義は主に[1]に従いながら、共形ネットを扱う[2]に繋がるようにしました。[3]は場の量子論の基礎からはじめWightman の公理に至り、Haag-Kastler ネットを導入してその性質を詳しく述べている、代数的場の量子論(AQFT)の標準的教科書です。

*1:Haag の元論文の定義では単に開集合と言っていますが、非空性はtrivial な場合を除くため、また連結性は共形ネットの流儀に合わせて加えました。

*2:すなわち領域 \( \mathcal{O} \) 内に台を持つような試験関数をOPVD により対応させた作用素全体。

*3:領域によって添字付けられている意ですが、連結性より厳密には有向族になっておらず、慣例でネットと呼んでいます。

*4:真空の記号が以前と違いますが、許してください。

*5:全く同じ意味でvon Neumann 環ともいいます。

*6:このようなvon Neumann 代数は存在します。単位元を付け加えて閉包をとればよいし、bicommutant theorem により可換子閉包をとってもよいです。

*7:Haag の元論文では \( C^{\ast}\)-代数となっていますが共形ネットの流儀に従いvon Neumann 代数としました。

*8:これ以降括弧につく負号は省略することにします。