VOA村の冒険

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2021年3月静岡旅行記① 大井川鐵道のSL

※これは緊急事態宣言が解除されていた2021年3月における旅行の記録です。

こんにちは。みしぇるです。

2021年3月末に、静岡県寸又峡というところに人生初の一人旅をしてきました。非常にいい経験になったので写真とともに文章にして残しておこうと思います。

経緯

 よく遊ぶ友人が大阪に行く用事があるらしく、経費の節約とローカル線を楽しむために18きっぷを買うか悩んでいた。2~3日の旅程に対し、18きっぷは5日分で1枚なので、2日分ほど余るからだ。この手の問題は金券屋で妥協することが多いかもしれないが、私は軽い気持ちで「18きっぷで一人旅をしてみたい気もするし、まけてくれるなら自分が買い取る」と言い、それは現実になった。

 普段は旅行どころか外出もまともにしない私だが、いざ切符が手に入ると、旅行に行きたくてたまらなくなった。旅行先として真っ先に頭に浮かんだのが静岡県寸又峡温泉だった。寸又峡は静岡の奥地の山の中にある温泉地で、どマイナーというほどではないが、関東在住の旅行趣味のない者が初手で選ぶことは多くない気がする。ここを選んだのには理由がある。

 皆さんは山さ行がねがというサイトをご存知だろうか。リンク先を見てもらえば分かるが、廃道・廃線(鉄道跡)などを自らの足で歩く「オブローダー」であるヨッキれんさんが、臨場感あふれるレポートを多数公開されている。私は Twitter でこのサイトを知って以来、ヨッキれんさんのファンである。中でもサイトを知ったばかりの頃に読んだ千頭林鉄の記事は、廃線跡を歩くためにここまでする人がいるのか、と驚愕した記憶があり、強く印象に残っている。この千頭林鉄の舞台こそが静岡県川根本町であり、寸又峡温泉には今も林鉄の痕跡が残っているのである。要するに、寸又峡温泉を選んだのは好きなコンテンツの「聖地巡礼」のためということだ。

1日目 東京駅~新金谷駅

 東京駅からJR東海道本線に乗って(何度か乗り継ぎながら)静岡県金谷駅を目指す。

 朝早くに出発したため出勤ラッシュにぶつかってしまい、人がすし詰めにされていく様子(コロナ対策はどこへ行った?)を見てグリーン車を利用することを即断。東京駅にはSuicaグリーン車を利用するための専用のチャージ機があったのでそれを利用した。小田原までで1,000円だった。

 東海道線グリーン車を利用するのは初めてだ。車両が2階建てになっている時点で子供心をくすぐられてしまう。迷わず2階に上がると、各座席の天井部分に赤や緑のランプが点灯しているのが見えた。ここに予めグリーン券を購入しておいたSuicaをかざすとその席を利用できるのだ。

 どうでもいい話だが、グリーン車には苦い思い出がある。中学校の修学旅行で東海道線に乗ったとき、誰かが「こっちの車両空いてるぜ」みたいなことを言い出した。私の地元である宮城県の在来線にはグリーン車が無いため、皆グリーン車の概念を知らなかったのだ。すぐさま乗務員がやってきて、ここはグリーン車なんですということを説明し、私たちは「すみません」と言って混雑した車両に戻るしかなかった。そのとき各席のランプが目に入って、確かによく見れば普通の車両とは違うな、と思ったことを覚えている。中学生の自分に、あのときの恥は雪いだよ、と教えてあげたくなった。

 そんな思い出に浸ったあとはずっと寝ていた。早朝の出発だったが直前まで準備していたため、出発前は30分程度の仮眠しかとれなかったのだ。車内で眠ったことにより体調がかなりマシになったので、グリーン車を利用したのは成功だったと思う。

 その後何度か乗り継いで金谷駅に到着した。今回の旅で18きっぷを使えるのはここまでだが、充分節約になった。

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10:52 金谷駅

 JR金谷駅を出てすぐのところに大井川鐵道金谷駅がある。今回は大井川鐵道の列車に乗って静岡の奥地を目指す。

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大井川鐵道金谷駅。トーマスが見えるが、本当にトーマスに乗れるイベントがあるらしい。

 ここで大井川周遊きっぷ(4,900円)を購入。これさえあれば大井川鐵道本線と井川線、さらに寸又峡温泉行きの路線バスに2日間乗り放題というお得すぎる切符だ。すると駅員さんが「もう列車が出るので急いで乗ってください」と言って長めに発車ブザーを流してくれ、予定より1本前の列車(11:03発)に乗ることができた。そもそも列車の本数が少ないので、いつ発の列車に乗るかという予定は全日程を通してかなり厳密に決めていたのだが、これは嬉しい誤算だった。

 1駅だけ列車に乗ると新金谷駅に着く。とても立派な駅であり、大井川鐵道本線の始点は金谷駅だが、拠点となっているのは新金谷駅のようである。

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11:07 新金谷駅

新金谷駅千頭駅

 さて、なぜたった1駅で降りたのかというと……

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左: SL急行かわね路1号。右: 普通列車

 SLに乗れるからです。

 大井川鐵道本線では(時期にもよるが)日に数回SLの運行がある。「聖地巡礼」とは関係ないが、もともと鉄道は好きなほうなので、この機会に是非乗ってみたいと考えたのだ。こんな感じで、今回の旅行では千頭林鉄に関係ないこともかなり盛り込んでいる。

 SLに乗るには通常の乗車券(周遊きっぷでよい)に加えてSL乗車券(820円)が必要となる。SL乗車券は新金谷駅前のプラザロコという建物で購入できる。私は事前にウェブサイトで予約していたが、乗車券を発行してもらうために窓口に並ばなければならず、結局まあまあ待たされた。たぶん繁忙期でなければ当日に窓口で乗車券を買っても同じなんだろう。

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新金谷駅前プラザロコ

 プラザロコ内には売店もある。お土産などを売っているわけだが、特筆すべきはSLの車内で食べられるお弁当だ。時期によって弁当の種類が変わるようだが、私が買ったのは「大井川ふるさと弁当」(1,150円)だった。他にもいくつかお土産を買った。

 いよいよSLに乗り込む。

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SLの車内はこんな感じ。

 座席は昔ながらのボックスシート。(繁忙期はどうか知らないが) 1グループにつき「1ボックス」が割り振られるようで、相席にはならなかった。

 車掌のアナウンスのあと、前方からポーッという甲高い汽笛の音が聞こえてきて、少しの衝撃とともに車体が動き出した。いよいよ始まったな、と思った。

 まずは弁当を開けず、車窓に集中して楽しむことにした。大井川鐵道の車窓からはその名の通り大井川を望むことができる。この日は晴れていたが前日の夜に雨が降っており、川は濁流となっていることが予想された。だから1日目の川の景観はあまり期待しておらず、2日目になんとか回復していればという気持ちだった。実際大井川の本流は茶色く濁っていたのだが、それでもいくつかの支流には青々とした水が流れており、目を楽しませてくれた。全く期待していなかっただけに、これはかなり嬉しかった。

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SLの車窓から見た大井川。奥の方に青い水が流れている。

 山の緑と川の流れに心が洗われる気分だった。上京してどこまでも住宅ばかりが並んでいるようなところで暮らしてきたせいで、自然が人間の心にもたらす安らぎを忘れていたのだと思う。

 また、静岡ならではの茶畑の緑も美しかった。さらにちょうど桜の季節だったため、茶畑と桜が見事なコントラストを生み出していた。

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車窓から見た茶畑。奥に桜も咲いている。

 ところで、車窓を楽しむ際は窓を開けることをおすすめする。そのほうが汽笛がよく聞こえるからだ。一部の箇所では汽笛のやまびこまで聞こえて楽しかった。ただし、杉の植林地を通るので、花粉症持ちは無対策だと死ねる。私は事前に耳鼻科に行って薬をもらっておいた。

 ある程度景色を楽しんだところでお弁当を開ける。

 

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大井川ふるさと弁当。写真がブレてしまった。

 どの具もおいしかった。特にごぼうの煮物が気に入った。ただ、全体的に味が濃いものが多く、前半でおにぎりがなくなってしまった。斜め後ろの席に座っていた人が車内販売でビールを買っているのを見て、「そういうこと」なんだろうなと思った。この後に林鉄跡の探索という体力を要する(かもしれない)工程が待っていたので、ぐっと我慢した。

 車内販売ではSL車内でしか買えないお土産も売っている。限定という言葉に弱い私は、車輪の焼印が入った「SL動輪焼き」(どらやき)とSLを象った「SL人形焼き」を購入した。私の席は列車の端にあって、ちょうどおばちゃんが動輪焼き・人形焼きを売りに来たときに即座に声をかけたので、「先頭の人が買ってくれるとみんなつられて買うから嬉しい」みたいなことを言われた、気がする。ちょうどトンネルに入って周囲の音がうるさかったので、おばちゃんの声をほとんど聞き取れなかったのである。

 その後も車窓からの景色を存分に楽しんで、終点の千頭駅に到着した。

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13:09 千頭駅

千頭駅沢間駅

 千頭駅大井川鐵道の本線は終わりで、ここから井川線という鉄道が延びている。千頭駅の時点で既に山々に囲まれているが、さらに奥へ入っていく鉄道である。

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大井川鐵道井川線。背景に千頭の山々が見える。

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反対側(進行方向)から撮影。アプト開業30周年らしい。

 大井川鐵道井川線は現在*1、日本で唯一アプト式と呼ばれる鉄道システムを採用した区間をもつ鉄道である。2020年でこの区間の誕生から30周年を迎えたらしく、「祝」と書かれていた。1日目はアプト式区間に入らないので、2日目の記事でもう少し詳しく言及しよう。

 早速車内に乗り込む。

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井川線の車内の様子

 車内はこんな感じ。分かりづらいが、この写真で私が座っているのが進行方向右側のボックス席で、左斜め前の座席を見ているという状況だ。左側には1人用の狭い座席しかなく、また景色も基本的にボックス席側のほうが良かったので、混雑していない場合はボックス席に座ることをおすすめする。

 2駅だけ列車に揺られて沢間駅に到着。

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13:46 沢間駅着。「澤」が旧字体だ。

 沢間駅は小さい待合所がぽつんとあるだけの駅で、Wikipediaによるとこの駅の平均乗降者数は0.7人/日らしい。なんでこんなところで降りたんでしょうね?

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右奥の道はいったい……!?

次回、林鉄跡を歩く。

*1:Wikipediaによれば、昔は国鉄信越本線にあったらしい。